「魂でもいいから、そばにいて/奥野修司」3.11で亡くなった人と再会した霊体験集【あらすじ・感想】

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ノンフィクション・その他

こんにちは。ゆっこう(yuccow)です。
今日はいつもとは違った趣の本をご紹介します。
「魂でもいいから、そばにいて・3.11後の霊体験を聞く」です。

これは、タイトルどおり3.11の津波で家族を失った人たちの霊体験を聞き取ってまとめた本です。
作者さんは「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」などたくさんの賞を受賞しているノンフィクション作家
少し引いたクールな目線で遺族の体験を聞き取っています

霊体験集といっても、よくある怖い話ではありません。胸が締め付けられるような切なくて、でも元気をもらえる本になっています。

こんな人におすすめ!

・愛する人を亡くした経験がある
・たとえ霊でも良いから、もう一度会いたい人がいる
・津波で家族を失った人たちのその後が気になる
・スピリチュアルな話に興味がある

あらすじ(内容紹介)

物語ではないので、あらすじというより内容紹介ですね。

フリージャーナリストでありノンフィクション作家である奥野さんが、3年半にわたって津波の被災地を訪れ、実際に聞き取りした霊体験をまとめた本です。
これはノンフィクションと言えるのかと、迷いながら聞き取りをした奥野さんは、必ず同じ人から3回聞き取りをして、その正確性などをチェックしています。

はじめは霊体験の聞き取りに乗り気ではなかった奥野さんですが、
おじいさんを津波で亡くしたおばあさんが、近所の人からあそこの十字路でおじいさんの霊を見た人がいると聞き、会いたくて毎晩その交差点に立っている
という石巻市での話を聞き、考えが変わります。

切ない話だったが、それを聞いてほっとすると同時に、思わず胸が高鳴った。これまで霊を見て怖がっているとばかり思っていたのに、家族や恋人と言った大切な人の霊は怖いどころか、それと逢えることを望んでいる。この人たちにとって此岸と彼岸にはたいして差が無いのだ。

「魂でもいいから、そばにいて」p14より

この本には、怖い霊体験ではなく、切なく愛しくうれしくなるような、ときに励まされるような霊体験が紹介されているのです。

見どころ

ひとりひとりのストーリー

どの体験談でも、体験した人のことについて詳しく紹介されています。
どんな土地に生まれ育って、どういう状況で、誰を失ったのか。亡くなった人はいつ見つかった(見つかっていない)のか。
その後、どんな状況で毎日を過ごしたのか。
など、簡潔で分かりやすく書かれているので、霊体験の背景がスッと飲み込めるのです。
だからこそ、体験者さんが霊体験したときの気持ちが、こちらにもダイレクトに伝わって来るんですね。

3歳の息子さんを失ったお母さんの体験談には、会いたい気持ちが最高潮に達したときに、供えられていたおもちゃが突然動き出したという話がありました。さらに「もう一度、おもちゃ動かしてみて」と願うと再び動いた、と。
そこに至るまでの、体験者さんのつらい経験に共感させられていたので、この体験談では私も涙が出てきました。

お子さんを失った方、配偶者を失った方、それぞれのストーリーが丁寧に分かりやすく描かれています。

読み手まで励まされる

さきほどのおもちゃが動いたというお母さんですが、この体験で「こんな近い距離で私たちを見ている」と感じたそうです。
ちょっと前までは、一日寝たら一日あの世に行って息子に会える日が近づくと思っていたお母さんが、体験をとおして生きる気力を取り戻していくんです。

康ちゃんの存在をそばで感じられたおかげで、『ママを見てんだな、じゃ、ちょっと頑張っかな』という気持ちになりました。

「魂でもいいから、そばにいて」p.76

その姿には、読んでいるこちらまで励まされます。

他にも、大きな余震で再び停電した瞬間に、亡くなった旦那様の(海水につかり充電もできずにいた)携帯が急に光って手元を照らしてくれた話など、亡くなった人が見守ってくれていると感じられる体験談がたくさんあります。

亡くなった人は、いつもそばで見ていてくれるんじゃないだろうか、と思わずにはいられません。
読み手の方も、体験者さんと一緒に励まされるのです。

感想

子どもを失ったお母さんの話、大好きだった配偶者を亡くした話。

泣きました。どの話も泣かずにはいられなかったです。
でも、悲しくてというよりは、切なくて出る涙でした。

東日本大震災当時、私も仙台市に住んでおり被災しています。
津波被害のひどかった石巻市にも、震災の1年前まで16年間住んでいて知人友人も多いです。
震災後には、私もいろいろな話を聞きました。
駅で真夏なのにダウンコートを着た女性を乗せたタクシー運転手さんが、途中で振り向くと誰もいなくなっていた話、
私も良く知っているコンビニのドアが、真夜中に誰もいないのによく開く話など。
でも、この本に書かれているのは、霊体験と言っても怖いというよりは切なくなる物ばかりです。
残された家族の思いや、亡くなった人の思い(であろうこと)が伝わってきて胸が締め付けられます。
一度はぜひ読んでみて欲しい作品です。

おすすめポイント

・ひとりひとりのストーリーに共感できる
・亡くなった人に見守られている体験談に励まされる

あとがき

自分も実際に震災を体験しているから、余計に感情移入してしまうのかもしれませんが、とにかく心を打たれた本でした。
知っている地名などが出てくるから「あそこで有った話なんだ」と余計身近に感じましたしね。
これは震災について知りたい方にも、もちろんお勧めですが、大切な人を亡くした方にも、ぜひ読んでほしいと思いました。
大切なあの人は、あなたのことを心配してるよ、ずっと見ててくれてるよ、と励まされる本です。

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